医療用麻薬(オピオイド)の種類
医療用麻薬(オピオイド)の処方箋が普段来ない薬局では、ベテランの薬剤師といえど服薬指導に不安を覚えてしまいます。患者は自分の病気や家族、仕事などいろいろなことで不安になられています、少しでも治療に専念できるよう薬剤師がサポートできることは非常に多いです。自分の指導に自信をもって説明できるようにしておくことが重要です。
オピオイドは脳や脊髄にあるオピオイド受容体への作用により、鎮痛効果を発揮する薬物の総称で、オピオイド受容体にはμ(ミュー)、δ(デルタ)、κ(カッパー)という種類があり、μのオピオイド受容体は鎮痛作用に最も関与するとされている。
モルヒネ
- μオピオイド受容体に作用して鎮痛効果を発揮する。
- 大部分が肝臓で代謝され、代謝物(M6G、M3G)は腎臓から尿中へ排泄されるため、腎障害患者では蓄積し、鎮静・呼吸抑制など副作用のリスクが高まる
- 剤形が豊富、経口(速報性・徐放性製剤)、静注・皮下注、経直腸など様々な経路の変更に対応が可能
- 各投与経路間の換算比が確立している
- 咳嗽や呼吸抑制のある患者の症状緩和にも有効
- 原末
- 徐放性製剤
- MSコンチン(錠剤):初回10mg、1回10~60mgを1日2回。効果発現時間:約60分、持続時間:8~12時間
- MSツワイスロン(カプセル):初回10mg、1回10~60mgを1日2回。効果発現時間:約60分、持続時間:8~12時間
- カディアン(カプセル):初回20mg、1日20~120mgを1日1回。効果発現時間:約40~60分、持続時間:24時間
- パシーフ(カプセル):初回30mg、1日30~120mgを1日1回。効果発現時間:約30分、持続時間:24時間
- モルペス(細粒):初回10mg、1回10~60mgを1日2回。効果発現時間:約60分、持続時間:8~12時間
- 速放性製剤(オプソ内服液)
- 1回5~10mgで開始、1日30~120mgを6回に分服
- レスキュー:モルヒネ経口製剤の1日量の1/6を目安。30分空ければ追加で何度でもレスキュー可能
- 効果発現時間:約10分、効果持続時間:3~5時間
- 坐剤(アンペック坐剤)
- 初回は10mg、1回10~30mgを1日2~4回挿入。効果持続時間:約20分、持続時間:6~10時間
- レスキュー:1回定時投与中のモルヒネ1日量の1/6量。2時間空ければ追加で何度でもレスキュー可能
- 注射
- アンペック注、モルヒネ注、プレペノン注
- 皮下、静脈、硬膜外、クモ膜下
オキシコドン
- μオピオイド受容体に作用して鎮痛効果を発揮する、作用がモルヒネと類似しているため効果の予測が容易
- 肝臓にて代謝されるが、活性代謝産物は微量のため、腎機能障害による影響を受けにくい
- 経口剤には徐放性製剤と速放性製剤がある
- 徐放性製剤(オキシコンチン)
- マトリックス型で残殻が便に出る。
- 1回5mgより開始、1回5~40mgを1日2回。効果発現時間:約1時間、持続時間:12時間
- 速放性製剤(オキノーム)
- 1日10~80mgを1日4回6時間ごと。効果持続時間:15分程度、持続時間:4~6時間
- レスキュー:オキシコンチンの1日量の1/8~1/4量。1時間空ければ追加で何度でもレスキュー可能
- 注射(オキファスト)
- 皮下、静脈
フェンタニル
- 合成のオピオイド製剤で、特にμオピオイド受容体に選択的に作用する
- モルヒネやオキシコドンに比べ、副作用が頻度も程度も低い
- 大部分が肝臓で代謝されるが、代謝物に活性がないため、腎機能低下患者に対して安全に使用できる
- 経口摂取困難な患者に対して、貼付剤による経皮投与が可能
- レスキューにはモルヒネやオキシコドンの速放性製剤を用いる
- レスキュー薬として効果発現の速い、口腔粘膜吸収剤が使用できる
- 徐放性製剤(経皮吸収)
- フェントステープ・ワンデュロパッチ(1日製剤)
- 本剤貼付前に使用していたオピオイド製剤の用法・用量を勘案して用量を選択する。効果発現時間:数時間、持続時間:24時間
- デュロテップMTパッチ(3日製剤)
- 本剤貼付前に使用していたオピオイド製剤の用法・用量を勘案して用量を選択する。効果発現時間:数時間、持続時間:72時間
- 速放性製剤:従来の速放性製剤では突出痛のマネジメントが難しい患者や経口摂取が困難な患者にし使用。使用に際しては安静時痛がマネジメントできており、経口モルヒネ換算で一定量以上投与されている患者(アブストラル:60mg、イーフェン:30mg)
- アブストラル舌下錠:1回100µgから開始、1回100~800µg。効果発現時間:15分以内、持続時間1~2時間
- 低用量から開始し効果判定を行いながら至適用量を決定する
- 投与から30分以降に1回のみ追加投与可能。次の投与までには2時間以上空ける。1日4回までの使用にとどめる
- イーフェンバッカル錠:1回50µgから開始、1回50~800µg。効果発現時間:15分以内、持続時間1~2時間
- 低用量から開始し効果判定を行いながら至適用量を決定する
- 投与から30分以降に1回のみ追加投与可能。次の投与までには4時間以上空ける。1日4回までの使用にとどめる
- アブストラル舌下錠:1回100µgから開始、1回100~800µg。効果発現時間:15分以内、持続時間1~2時間
- 注射液(フェンタニル注射液)
- 皮下注(承認外)・静脈、クモ膜下・硬膜外
タペンタドール
- μオピオイド受容体とノルアドレナリントランスポーターに作用する合成のオピオイド製剤
- μオピオイド受容体に作用することで鎮痛効果が得られることと、ノルアドレナリントランスポーターに作用することで神経障害性疼痛への効果も期待できる
- 肝臓で代謝されるが、代謝物に活性がないため、腎機能低下患者に対して安全に使用できる
- 他のオピオイド製剤と比較して便秘や悪心・嘔吐、傾眠の副作用が少ない
- デメリットとして経口の持続性製剤しかない。セロトニン症候群に対して注意が必要
- 初回25mg、1回25~200mgを1日2回。効果発現時間:1時間程度、持続時間:8~12時間。
- 速放性製剤がないため、レスキュー薬はモルヒネやオキシコドンの速放性製剤を用いる
ヒドロモルフォン
- モルヒネから合成される半合成のオピオイド製剤。世界的にモルヒネの代替えとして使われている
- 肝臓で代謝されるが、代謝物に活性はない。ただし神経毒性を持つため注意が必要
- 効果がモルヒネと類似しており効果予測が容易
- 経口剤には徐放性製剤と速放性製剤がある
- 徐放性製剤(ナルサス)
- 初回4mg、1回4~24mgを1日1回。効果発現時間:6時間、持続時間:24時間
- 速放性製剤(ナルラピド)
- 1回1mgから開始、1日4~6回。効果発現時間:15~30分、持続時間:4時間
- レスキュー:ヒドロモルフォンの1日量の1/6~1/4量を経口投与
- 注射剤
メサドン
- μオピオイド受容体とNMDA受容体などに作用する合成のオピオイド製剤
- μオピオイド受容体に作用することで鎮痛効果が得られることと、NMDA受容体に作用することで神経障害性疼痛への効果も期待できる
- 他のオピオイド製剤と比較して便秘や悪心・嘔吐、傾眠の副作用が少ない
- 肝臓で代謝され、腎臓から尿中に、一部は糞便中に排泄される
- 他剤との交叉耐性が少ないため、他のオピオイド鎮痛薬に耐性でも本剤投与時に過量投与の恐れ。利点として他剤無効時に対応できる
- デメリットとして経口の持続性製剤しかない。血中濃度半減期が長い。薬物動態の個人差が大きい
- 塩基性脂溶性のため組織へ時間をかけ移行・貯留。効果発現に時間がかかるが効果を長時間維持。中止後も作用持続のため注意が必要
- 癌性疼痛に精通した医師に限られ、本剤のリスクを管理・説明可の医師、医療機関、管理薬剤師のいる薬局で使用。医師は製薬会社提供の講習を受講、薬局では医師・医療機関を確認し、調剤されるように製造販売で必要な措置を講じる必要がある
- メサペイン(速放性(長時間型))
- 1回5~15mgを1日3回 8時間ごとに投与。効果発現時間:数時間~1週間程度、効果持続時間:8~12時間
痛みの性状と分類
- 侵害受容性疼痛
- 内臓痛:腹部腫瘍の痛みなど局在があいまいで鈍い痛み。ズーンと重いなど。→オピオイドが効きやすい
- 体性痛:骨転移など局在がはっきりした明確な痛み。ズキッとするなど。→突出痛に対するレスキューの使用が重要
- 神経障害性疼痛
- 神経叢浸潤、脊髄浸潤などが原因で、電気が走るような、しびれる、ジンジンする、しめつけられるような痛み→難治性で鎮痛補助薬を必要とすることが多い
オピオイドスイッチング(ローテーション)
- 鎮痛が十分でない場合、または副作用によるもの、剤形により投与が困難となった場合にオピオイドの種類を変更すること
- 力価表に従って、現在のオピオイドと等価の新しいオピオイドの投与量を決め変更する
オピオイド無効の場合
- 放射線治療:疼痛の緩和と骨折の予防に、また局所の病変制御にも
- 神経ブロック
- 鎮痛補助薬
- 炎症性の疼痛→ステロイド、NSAIDs
- 非電気系(しびれる、ひっぱられる、押さえつけられる、重たい)→抗うつ薬
- 電気系(ビリビリする、電気が走る、ジンジンする)→抗てんかん薬、抗不整脈薬
- ビスホスホネート製剤
- 骨転移による疼痛を和らげる作用がある
- 血中のCa値を下げる作用や、骨折などの骨病変を改善する作用も持つ
- 重篤な副作用として顎骨壊死がある
薬物療法以外の疼痛緩和の方法も考えてみる、よく寝てリラックスする、上手な息抜きをする、マッサージなどする、軽い運動を取り入れるなど生活の改善。また疼痛を誘発するような体動を避けた生活環境の整備。一人で抱え込まないでケアとコミュニケーションを心掛ける
治療の選択肢を一つでも多くしめせれるように、正しい知識をもって医療従事者に提案できるよう、また患者に安心して薬剤を使用していただけるよう努力していくことが大事だと思います。
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